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賀陽も、待子を見て気まずい感じになった。
「あの事件について触れるのは、まだ難しかったみたいですね」
「すみません……」
「いえ。こちらこそ、すみませんでした」
事件の記憶を封印し、事件に関する話題を避け、往子の家の近くにはいかないようにした。
現実から必死に逃げて立ち直れたと思っていたのに、往子の名前を聞いた途端、体が動かなくなるなんて。
待子の中では、事件はまだ終わっていないということだ。
「待子さんには苦しいことかもしれませんが、このまま話を聞いてください。僕は、更科往子ちゃんのご両親に頼まれて、犯人を捜しています。ご両親から、ゆきちゃんと一緒にいた子は、『まーちん』と呼ばれていた子だと聞き、君がその子かどうかを確認しにきました。君で間違いないですね。その時の状況を詳しく教えてください」
「ゆきちゃんのご両親からの依頼なんですね……」
あの事件で、往子のご両親はさぞかし悲嘆にくれたことだろうと思う。
何年経とうが、娘を奪った犯人捜しに手を尽くすことは当然だ。
警察が頼りにならなければ、自費で探偵を雇うこともあり得る。
「解決に協力してもらえると、往子ちゃんも喜びます」
「往子が喜ぶ……。そうですね……」
犯人が捕まらない限り、往子もあの世で浮かばれないと言いたいのだろう。
協力を拒否すれば、今まで通り、事件はなかったこととして生きていける。
(でも、それでいいの……?)
心のどこかに、きっと芽生える罪の意識。
犯人を捕まえて事件を終わらせることは、これからの人生にとても大切なことかもしれない。
もう子どもじゃない自分に、協力は可能だろう。
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