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待子は、この探偵に協力する方へと気持ちが傾きつつあるが、一方で、たとえ協力しても事件解決は難しいだろうと思った。
警察さえも犯人の特定一つできていないのに、この探偵に見つけられるのだろうかという疑問が一つ。
そして、待子に思い出せるかどうかが一つ。
警察は、当時8才だった待子に事情聴取することもなかった。
誰も往子の家族がどうなったか教えなかったし、事件の後に、何がどうなったかも知らない。
待子は、賀陽に提供できる情報があまりにも少ないと思った。
「協力は構いませんが、私、ショックで前後の記憶を失くしているんです。だから、難しいですね。それに、思い出そうとすると、体が震えて何も考えられなくなるんです。事件のあとは病院通いばかりで、事件に関することは何も記憶がありません」
「大丈夫です。僕が知りたいことは、すべて、君の脳にあるから」
「私の脳に?」
「人間の脳は、一度見たことを決して忘れません。それは、ちゃんと海馬という部分に記録されているんです。時間が経つと、記憶は海馬から大脳皮質にある『前頭前皮質』に送られ保存される。だから、忘れたつもりでも、忘れることは決してないんです。決してね。見たこと、聞いたこと、体験したことは、全て脳の中に記録されている。あとは、そこから情報を取り出せるかどうかだけの問題なんです」
「その理論は、脳の仕組みの本で読んだことがあります。でも、実践するのは簡単じゃないと思います」
「僕がそれをできるとしたら?」
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