第一章 催眠術探偵登場

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 待子は、とてもウンザリした。 (こんな時に、オーナーがいてくれれば助かるのに)  オーナーは、気まぐれにやって来る。  大体、肝心な時にいないのだ。  賀陽は、これ以上ここにいてもこじれるばかりと退散することにした。 「今日はこれで帰ります。また、来ます」 「お、おい! 待て! 逃げるのか!?」  賀陽は、お金をテーブルに置くと豪臥を振り切って出て行った。  外まで追いかけようとする豪臥を、待子が止めた。 「豪臥さん! やめて!」 「くそー!」  豪臥は、賀陽を追うことを諦めて戻ってきた。 「何か変なことをされなかったかい?」 「私は大丈夫です。それより、豪臥さんこそ落ち着いてください」  待子に言われて、豪臥は仕方なく座った。  ようやく、店内が静かになったのでホッとした。 「何か飲んだ方がいいですよ」 「じゃあ、コーヒーを」 「はい。すぐにお持ちしますから」  待子は、コーヒーを持ってくるとテーブルの上に置いた。 「お待たせしました」 「待子ちゃん」 「なんですか?」  豪臥は、ハーッっとため息を吐くと首を横に振った。 「待子ちゃんは、人が良すぎ。すぐ、騙されるんだから」 「騙される? まだ、疑っているんですか? あの人は、探偵で……」 「名刺なんていくらでも作れるんだから、ウソかもしれないし、たとえ本物の探偵だったとしても、だからどうだっていうんだ? 探偵なんて、誰でも名乗れる無資格職。何の価値もない。何か問題を起こしても、痛くもかゆくもない怪しい仕事だ」 「そこまで言わなくても……」  豪臥は、待子の手を両手で握った。 「豪臥さん、何を?」
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