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「待子ちゃん、聞いてくれ。君は、純粋で素直でとても優しい。それは、とてもいいことだ。だけど、この世は悪い奴がたくさんいて危険だらけだ。純粋なだけでは、まともに生きていけないんだよ」
「私が、あの人に騙されているっていうんですか?」
「ああ、そうだ」
「でも、催眠術は本物みたいですよ。だって、あの人のネクタイが縄跳びに見えたんですもの。それも、昔、友達が使っていた縄跳びに。名前まで書かれていたのよ。不思議だわ」
「ネクタイが、縄跳びに見えたって?」
豪臥は、顔をゆがめた。
「催眠術を使えるというのは、本当なのか。とても危険だ」
「そうですか?」
「その気になれば、催眠術を使ってとんでもないことを待子ちゃんにさせることだって可能だ」
「脅かさないでください。それに、単なる好奇心で掛けてもらうんじゃないんです。友達のためなんです」
「友達のため?」
「ええ。10年前に起きた、私が引きこもる原因となった事件のことです。犯人は、まだ捕まっていないんです。あの人はそれを調べていて、解決するのに私の目撃証言が必要らしいんです」
豪臥は、驚いた。
「待子ちゃんは、その犯人を目撃したの?」
「その時、まだ8才だったからなんとも……。それに、大部分の記憶を失っているし。それを、催眠術で思い出させるって言うから掛けてもらっていたんです」
「そうだったのか。でも、せっかく元気になったのに、昔を思い出して悪化するんじゃないか? 余計なことをしない方がいい」
「私、思い出すのは怖いけど、犯人が捕まれば事件の呪縛から解き放たれる気もするの」
「それこそ、洗脳されている証拠だよ」
「え? 洗脳? 私が?」
「催眠術で、そう思うように仕向けられているのかもしれない」
「洗脳するような暇はなかったはず。それに、私は殺されたゆきちゃんの無念を晴らしたい。だから、あの人に協力します」
「……」
待子の決意を聞いて、豪臥は少し考えた。
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