第二章 純香

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「実は、純香ちゃんの厚川という本名は、旦那方の名字なんだ。離婚しても、娘ちゃんのために名前を変えたくないと言って、今でも使っているんだよ。俺は、未練があるのかと思っているんだけど」  御法川は、賀陽の肩をバンバン叩いた。 「純香ちゃんは、次に賀陽になるかもしれないんだよな。期待しているぞ。是非、純香ちゃんに笑顔を取り戻してやってくれ」  御法川は、善良な人間だ。  ただ、元からその気のない賀陽にとっては、彼の期待が重い。 「純香さんがスナックで働きだしたのは最近ということで、離婚してからの4年間、どうやって生活していたか知っていますか?」 「娘ちゃんがまだ小さかったから、実家の援助で生活していたらしい。それもそろそろ限界だし、ちゃんと稼ぎたいから、『爽』のママに紹介してほしいと頼まれたんだ」 「御法川さんは、就職の紹介を頼まれるほど、純香さんと仲が良いんですね」  御法川は、笑って純香との仲を否定した。 「いやいや。俺に嫉妬しなくていいから。そんなに親しかったわけじゃない。たまたまだよ」 「それじゃあ、どういういきさつで?」 「元々、『爽』で働きたかったところに、俺が常連だと知って声を掛けたんだろ。近所ではあるが、話したのはその時が初めてだった」 「『爽』を選んだのは、向こう?」  御法川は、空になったお銚子を振った。 「もう一本、いい?」  御法川は、へべれけになってきている。
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