第二章 純香

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「いいですよ」 「おいちゃん! お燗、一つ!」  気が変わらぬうちにと、御法川は、すかさず店員に注文した。  すぐに持ってきたので、御法川は手酌で飲んだ。 「俺ばかり飲んでいるけど、兄ちゃんは飲まないの?」 「御法川さん……」 「ん? なんだい?」 「僕の合図で、今、僕と喋ったことを、全部、忘れてもらいます」 「はあ?」  急に何を言っているのかと、妙な顔をした御法川の目の前で、賀陽は人差し指を立てた。 「この指先を見て」  御法川は、キツネにつままれた顔で言われた通りに指先を凝視した。 「3……2……1……、はい!」 「……あれ? 俺、何を喋っていたんだろう?」  御法川は、思い出せなくて悩んでいる。 「いろいろ話してくれて、とても、楽しかったですよ。今日は、ありがとうございました。お礼に、ここの勘定は持ちますから」  賀陽は、呆然と座っている御法川を置いて店を出た。 「ふーむ。意外な展開だったな」  事件の時に、たまたま居合わせただけと思っていた人が、最近になって待子の近くに現れたということだ。  そして、その人の子どもも、8才で亡くなった。  どうやら、この事件は一筋縄ではいかないようだ。
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