141人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
「いいですよ」
「おいちゃん! お燗、一つ!」
気が変わらぬうちにと、御法川は、すかさず店員に注文した。
すぐに持ってきたので、御法川は手酌で飲んだ。
「俺ばかり飲んでいるけど、兄ちゃんは飲まないの?」
「御法川さん……」
「ん? なんだい?」
「僕の合図で、今、僕と喋ったことを、全部、忘れてもらいます」
「はあ?」
急に何を言っているのかと、妙な顔をした御法川の目の前で、賀陽は人差し指を立てた。
「この指先を見て」
御法川は、キツネにつままれた顔で言われた通りに指先を凝視した。
「3……2……1……、はい!」
「……あれ? 俺、何を喋っていたんだろう?」
御法川は、思い出せなくて悩んでいる。
「いろいろ話してくれて、とても、楽しかったですよ。今日は、ありがとうございました。お礼に、ここの勘定は持ちますから」
賀陽は、呆然と座っている御法川を置いて店を出た。
「ふーむ。意外な展開だったな」
事件の時に、たまたま居合わせただけと思っていた人が、最近になって待子の近くに現れたということだ。
そして、その人の子どもも、8才で亡くなった。
どうやら、この事件は一筋縄ではいかないようだ。
最初のコメントを投稿しよう!