第一章 催眠術探偵登場

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「ありがとうございました!」  客が出て行くと、待子はテーブルの上を片付けに向かった。  置きっぱなしだった本を元の本棚に戻し、濡れ布巾でテーブルの上を綺麗に拭くと、コーヒーカップを銀色のトレイに下げた。  歩いている時、座っている客と目が合った。  今日は客足が鈍く、店内にはその客一人しかいない。  待子は、さきほどからその客が気になっていた。  トップはダークブラウンのクラシカルジャケット。ボトムは真っ赤なストレートジーンズ。  ネクタイは、どピンクだ。  難しい組み合わせの色合いをおしゃれに着こなしている、若いけど渋い男性客。  ちょっと、いいなと思っていた。  だが、彼の前にあるのは、似つかわしくないスペシャルビッグパフェ。  それを食べながら、ずっと、こちらを見ている。  お客が何をオーダーしようが、自由なのだが……。 (苦いコーヒーをすすれば、さぞかし絵になるだろうに……。惜しいなあ……)  そんなことを思いながら、待子は汚れ物を片付けた。
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