第一章 催眠術探偵登場

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「ちょっと、すみません」  男性客が右手を上げて呼んだので、待子は急いで手を拭いて近寄った。 「なんでしょうか?」 「少し、お喋りの相手をしてもらえませんか?」 「は……?」 「お客は僕しかいないようだし、少しだけ、お願いします。聞きたいことがあるんです」 「分かりました。少しだけなら」  自分の何を聞きたいのかと、少し緊張した。 「ありがとうございます。僕は、賀陽康史(かやこうじ)といいます。お名前を聞いてもいいですか?」 「要石待子です」 「今、おいくつですか? あ、僕は28才です」  やはり、そうかと待子は思った。  要するに、ナンパ目的なのだろう。 「18です」 「普段は、学生?」 「いえ。フリーターです」 「じゃあ、毎日、ここで働いているんですか?」 「そうです」 「入った時から気になっていたんですが、このカフェは本がたくさんありますね」  カフェの質問だったので、待子は少し安心した。  壁はすべて造り付けの本棚となっていて、学術書や英語のペーパーバックが並んでいる。  知らずに入った客は、本だらけの店内に面食らい、店を間違えたかとそのまま入らずに出て行ってしまうものも少なくない。
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