第三章 蒲郡斉史

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「恋……」 「ハ!」  言った後から恥ずかしさで真っ赤になり、慌てて否定した。 「今のは、違います! 間違えました!」  賀陽は、バカにすることなく真面目な顔で言った。 「恥ずかしがることなんてない。女の子らしい、いい夢だ」 「そうですか?」 「恋をしたいって、当たり前のことだからね。待子さんに、夢や希望があって安心した」  待子はホッとした。 「私、誰かとコイバナもしてみたいです」 「コイバナか……。それは、僕には難しいな」  賀陽が難しい顔で答えるので、待子は可笑しくなった。 「別に、賀陽さんに求めているんじゃないですよ。同世代の女友達としたいです。映画や漫画によく出てくる、一緒にお泊りして朝まで語りあって、みたいな状況に憧れているんです」 「……」 「でも、そのためには女の子の友達をつくらなきゃ……。どこでつくればいいのか、分からないんです」  待子は、悩んでいる。 「学校に行けば、できるんじゃないか?」 「学校は怖いところです。嫌な人たちばかり」  記憶の中の同級生たちによって、思いだしてしまった。  いつも、嫌な目に遭わされていたこと。  そのせいで、学校に対していいイメージが出てこない。 「自分で作ったイメージに、自分自身で捕らわれているんだよ。学校だって楽しいさ」 「でも……」  待子はためらっている。  賀陽は思った。  待子は、一歩踏み出そうとしてはひっこめて、同じ場所で足踏みしている状態なのだと。
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