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私はあのあと、走って走って校舎裏の人気のない場所に来ていた。涙を引っ込めようと、必死になって袖で拭った。
「愛、」
凜太郎だ。泣き顔は見られたくない。
「凜太郎、なんでここにいるって分かったの?」
うつむいたまま聞くと、凜太郎は私の横にドスンと座り言った。
「愛と渚が喧嘩したときあったじゃん?その時もここで泣いてたから。」
私と渚は夏に一度だけ喧嘩をした。確かにその時、私はここで泣いていて私を見つけてくれた凜太郎が慰めてくれた。その時に、好きになった。
「……そっか、ありがとう。でも、立花さんはいいの?」
目だけ横を向いて、凜太郎を見つめた。凜太郎は晴れている空を見ながら、「演技くらいわかるし。愛が泣いてるの見たら、いてもたってもいられなくなって、愛を追いかけた。」と言った。
また、涙が溢れそうになった。
「あれ?また泣くのか?」
「べ、別に泣いてないよ!」
凜太郎がからかうように笑ったので、私は少し顔を上げ、凜太郎を睨んだ。目があった。
お互いに顔が真っ赤になるのを感じ、慌てて目をそらす。
「……あのさ、話って何?」
凜太郎は少し赤い顔の口元を手で覆いながら、小さく聞いた。私の心臓が早鐘を打つ。
「それは…その……私、凜太郎のことが、……好き」
渡す予定だったチョコ。空き教室においてきてしまった。
でも、やっと言えた。凜太郎に言えた。私の気持ちを。
あぁ、でも断られたらどうしよう。凜太郎は誰のことが好きなんだろう。もう心臓が壊れそう
「……俺も好き。」
時が止まった気がした。少し長めの前髪の間から覗く凜太郎の目が、私を動けなくした。
「……ほんとう?」
私の口から無意識に漏れた呟きを聞き取った凜太郎は、顔を真っ赤にしながら頷いた。
また、凜太郎のせいで泣きそうだ。
「愛、これさ。愛が作ったチョコだろ。」
凜太郎がポケットから取り出したのは私のチョコ。あのあと、チョコを拾っておいてくれたのか。
「食べてもいい?」
ゆっくり頷くと、凜太郎はチョコを食べ始めた。
「……うまい。……なぁ、来年も俺のためにチョコ作ってよ。」
凜太郎が優しく笑う。私もつられて笑う。
私は凜太郎のために、来年も、再来年もチョコを作るだろう。
今日みたいな、幸せなバレンタインにするために。
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