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この画像では、何も分からないと、瀬々木が言おうとしていたが、俺は工藤室長の端末を借りてみる。
「谷津、データを頂戴」
すると、器材が壊れるまでの測定データと、そこまでで取っていたデータを出してくれた。
土の成分、発酵具合など、細かいデータがそのまま残っている。
「どうして、これを?」
「通信が生きていたので、全部、保管しておいたのです」
瀬々木が、俺の顔を凝視していた。
「はい。俺では要らないデータなので、瀬々木さんに譲ります」
向こうには成果物が残ったかもしれないが、こちらには測定データが残った。
「……ありがとう」
瀬々木は呆然としていた。
「まあ、何が起こったのかは分かった。相手が何を考えているのかは、不明だ。この件は、機密で扱う」
俺の代わりに死んでしまったような、中学生は行方不明のままになっているのだろうか。しかし、谷津が防犯カメラを確認すると、その少年は学校に行っていた。
「泥人形だ。記憶も入っている」
どういうつもりなのかは分からないが、少年の泥人形を作り、生活させているらしい。
「これも機密だ」
あれこれ、機密扱いにされてしまった。
「ちゃんと、研究所でも機密として扱うよ。谷津君、セキュリティーの補佐をお願い。でも、わざと流出させて犯人を突き止めてもいいよ。その時は、偽データでね」
「見積りを出しますよ」
谷津と、工藤室長が仕事の話になったので、俺は歩いて朱火駅に行く事にした。氷渡は、瀬々木を送ってゆくという。
「腹減った。喫茶店ひまわりで、昼飯にしよう」
朱里駅まで歩いていると、どこかでニュースが流れていた。この件は隕石の落下で落ち着いたらしい。
芥川家は、妹がこちらの世界に来て、兄の知登世が家に帰った。
俺のシフォンケーキは、黒川が食べてしまい、風呂には富士山が描かれた。山の上の巨大露天風呂は、小田桐が作成しているらしい。
俺は、今日も志摩の手の中で目を覚ます。
『朱火定奇譚 前編』 了
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