第二十四章 生きている森 四

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 この画像では、何も分からないと、瀬々木が言おうとしていたが、俺は工藤室長の端末を借りてみる。 「谷津、データを頂戴」  すると、器材が壊れるまでの測定データと、そこまでで取っていたデータを出してくれた。  土の成分、発酵具合など、細かいデータがそのまま残っている。 「どうして、これを?」 「通信が生きていたので、全部、保管しておいたのです」  瀬々木が、俺の顔を凝視していた。 「はい。俺では要らないデータなので、瀬々木さんに譲ります」  向こうには成果物が残ったかもしれないが、こちらには測定データが残った。 「……ありがとう」  瀬々木は呆然としていた。 「まあ、何が起こったのかは分かった。相手が何を考えているのかは、不明だ。この件は、機密で扱う」  俺の代わりに死んでしまったような、中学生は行方不明のままになっているのだろうか。しかし、谷津が防犯カメラを確認すると、その少年は学校に行っていた。 「泥人形だ。記憶も入っている」  どういうつもりなのかは分からないが、少年の泥人形を作り、生活させているらしい。 「これも機密だ」  あれこれ、機密扱いにされてしまった。 「ちゃんと、研究所でも機密として扱うよ。谷津君、セキュリティーの補佐をお願い。でも、わざと流出させて犯人を突き止めてもいいよ。その時は、偽データでね」 「見積りを出しますよ」  谷津と、工藤室長が仕事の話になったので、俺は歩いて朱火駅に行く事にした。氷渡は、瀬々木を送ってゆくという。 「腹減った。喫茶店ひまわりで、昼飯にしよう」  朱里駅まで歩いていると、どこかでニュースが流れていた。この件は隕石の落下で落ち着いたらしい。  芥川家は、妹がこちらの世界に来て、兄の知登世が家に帰った。  俺のシフォンケーキは、黒川が食べてしまい、風呂には富士山が描かれた。山の上の巨大露天風呂は、小田桐が作成しているらしい。  俺は、今日も志摩の手の中で目を覚ます。 『朱火定奇譚 前編』 了
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