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この瞬間、翔は理解した。
ああ、やっぱり兄貴目当てか…と。
「すみません、俺、そういうの、よく分かんなくて。もういい大人ですし、そういうことも学ばなきゃダメですよね」
なんて言いながら愛想笑いを浮かべた。
間もなくエレベータが目的のフロアに到着すると、二人はエレベータを下りた。
翔がドアノブに手を掛けると、その左隣の部屋のドアの鍵を開けた夫人が翔を見て、「じゃあ、おやすみなさい」と頭を下げてから部屋に入って行った。
翔も扉を開けて中に入ると、思いがけないものを見て目を丸くした。
「兄貴…そのズボン後ろ前だけど」
風呂上りらしい野本のズボンが後ろ前であることを指摘すると、野本はまた大きなため息を吐いた。
そんな兄を不憫に思ったのか、翔もまたため息を吐く。
「病院行くか?俺が一緒に行ってやってもいいぞ?」
心療内科の事だろうか。
相当病んでいるらしい野本にそう声を掛ければ、「寝る」と、後ろ前のズボンのまま部屋へと入って行った。
「ありゃ重症だな……」
買い物袋をぶら下げたまま靴を脱ぐと、「そういや、髭は剃ってたな」と、つぶやいて台所へ向かった。
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