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「お前が勤める店に折原彩香と言う女性が在籍しているはずだ。居場所を探してくれ」
──直球すぎてちょっと何を言っているのかよく分からない……。
翔は首を傾げながら目を細めた。
「なに?その人が兄貴の想い人?」
そう尋ねれば、
「居場所を見つけ出したならお前にも紹介してやる」
と、言ってくる。
「いや、別に紹介してほしいとか思ってないけど」
と言いながらも、机の上に転がっていたボールペンで掌に名前を書き込む。
「おりはら あやか…ね。はいはい、気が向いたら調べておきますよ」
「気が向かなくても調べろ。見つけ出すまで帰ってくるな」
──兄貴をここまでろくでなしにしたのはどこのどいつだ……?
と、思いながら、翔は兄に負けない程、盛大なため息を吐いた。
優しい兄はどこへやら。
まるで人が変わったようだ。
手のひらに書いた文字を見つめていると、野本がのそのそと動き始める。その動きは亀よりも鈍く、カピバラよりも謎だ。
時計を見れば出勤時間だと分かった。
外の世界でそんな姿見せないでくれよ…と、思いながら、カバンを持って出かけていく兄の背中を見送った。
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