予感

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ため息の原因は分かっている。 しかし、どうしたらいいものか、考えても答えは出なかった。 彩香が病院から忽然と消えた事を知り、看護師を追求した。 しかし看護師は「転院した」の一点張りだ。 転院と言うことはおそらく父親である神藤が何か知っているだろうと電話をかけてみたが、「しばらくそっとしておいてやってくれないか」と言うだけで、居場所を告げようとはしない。 彼女の身に何が起きたのだろう…そう思うと、平常心ではいられなかった。 ふと、別室から戻ってきたらしい青年が声を掛ける。 「兄貴、俺バイト始めたから」 と、台本片手に向かいの一人掛け用ソファに腰かけた。 「バイトって?」 「ディスカウントショップ。なんか、時間の融通も利くみたいだし」 台本を開いたかと思うとパラパラ漫画みたいに一瞬で最後まで目を通し、それをテーブルに投げた。 「テレビの仕事は?」 「やるよ。今は経済的にきついから、とりあえずバイトしようかと思って」 「へえ…バイトねぇ」 気のない声でそうつぶやくと、またソファに身体を倒した。 もう、何もする気にならない。仕事だけはとりあえず行くけど。 「兄貴、ひげ剃れよ」 正面から青年が言った。 髭を剃るのも面倒だった。会いたい人に会えない…恋煩いなんて、一生縁のないものだと思っていたが。 野本純一、34歳。 北海道警察捜査第一課の刑事。 現在、恋の病、発病中。
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