予感

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『可愛い』と言われるより、『イケメン』と言われたい翔だが、兄と比較されるとその言葉は奪われてしまう。 「はははっ……兄貴はイケメンですね。不愛想ですけど」 その言葉に夫人は笑った。 それと同時にエレベータの扉が開き、夫人が乗り込んだ後に翔も乗り込む。 「男性は不愛想なくらいがいいわ。軽口だと信用を無くすもの」 そうつぶやいた夫人は5階のボタンを押した後、エレベータのフロア表示板を見ながら遠い目をする。 1階から2階へランプが移ったのを確認すると、夫人は翔が手にしているビニール袋に目を向けた。 インスタントラーメンが入っているのを見れば、同情したのだろう。 「男性二人だと料理をする事も無いわよね……。よかったら今度うちに食事にいらして」 優しい言葉をかけてくれているが、翔は苦笑いを浮かべた。 見ず知らずの人の手料理を食べるなんて無理だ…と、思いながらうまく断る口実を探す。……いや、無理だろ。と、断る口実を考える事を諦めた。 「すみません。俺、兄貴の作った飯しか食えないんですよ」 はっきりそう言葉にすると、夫人は口元を手で覆って笑い始めた。 「素直な人ね。普通は女性に恥をかかせないように言葉を選ぶものよ」 そう言いながら笑っている。
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