今日なら叶えられること

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日の暮れはじめた青緑色の森を、一人の男の子が歩いています。 足元にはこんもりとあたたかな雪。 昼過ぎから降りだしたそれは、遊び回る子供達に踏みつけられて固く、冷たくなった雪上を真っ新にしました。 本当にふわふわで、今朝ママに“起きなさい!”と剥ぎ取られたお布団みたいにあたたかそうな綿雪です。 けれど、男の子はその上をとぼとぼと歩くだけ。 木立の枝の隙間から射し込む月光の銀色も、一足ごとにキュッと鳴く雪の声も、皆みんな無視して蹴散らして。 しばらく進むと、向こう側から金色がやってきました。昼間遊んだ、森の中の…子供達が“広場”と呼んでいる方からです。 金色はゆらゆら、時々ちらちらと揺らめいて、なんだか震えているようです。 「なんだろう。」 男の子は駆けだします。怖くはありません。ただもう不思議で、わくわくするのです。 走って走って、転んで、走って…金色を追って辿り着いたのは、やはり森の広場でした。 「わあ…」 見慣れた場所なのに、そんな声が漏れました。だってそこでは、大きなモミの木が明明とその姿を浮かび上がらせていたのですから。 枝の先で、蝋燭がチッと小さく弾けながら辺りを照らしています。 「ツリーだ!」 男の子が嬉しそうに見上げていると、耳の端で雪の鳴く音がしました。 「…誰?」 固くなった表情に、ゆっくりと影が落ちてきます。その気配に、男の子は自分がここに来たワケを思い出したのでした。
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