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チラリと公爵を見ると、どこか険しい顔をしている。
その口は“アマデーウス人、みこではない”と言っていた気がする。
痺れを切らしたのか、伊納春が私の胸倉を掴んできた。
「お前のせいか?」
「何の事?」
「お前がこの世界に連れてきたのか?」
ズイズイと詰め寄る彼の目元には濃いクマがあった。
かなり疲弊しており、今にでも倒れてしまいそうな顔色だ。
「私も訳もわからず、この世界へ来た」
ポツリポツリ、ここに来た経緯を語ると伊納春はゆっくりとソファーに腰をかけた。
「九島もこっちに来ていたのか」
溜息まじりに吐き出した言葉を合図に、伊納春も語り出した。
元の世界とこちらの世界では時間の流れが一緒らしい。
私達がいなくなって、45日目に伊納春は共明神社を訪れた。
その時にご神木にお祈りをしていたら、いつの間にかこっちの世界に来ていたという。
一息ついた頃に女中がコーヒーとデザートを持ってきた。
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