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隣の部屋のドアの開く音が聞こえた直後少女は立ち上がっていた。
いつもなら大人しく縮こまって震えていたが、今日は何故か耐えられそうにない気がした。
――逃げなきゃ。
部屋から飛び出して玄関へと走っていこうとした矢先、襟首を掴まれて引きずり倒される。
「どこ行くんだよ」
暗くくすんだ瞳が少女を見下ろす。
いつもヒステリックに怒鳴る母親とは対照的に父親は相変わらず薄笑いを浮かべていたが、その表情はどこか言いようのない恐怖を与えるものだった。
「『お前も』外出か。まあいいや」
行けよ、と彼は手を離した。
玄関に向かう少女は父親の次の言葉に足を止める。
「例のニュース知ってるか? ガキが次々殺されたってやつ。凶器は何だろうな?」
父親は不自然なくらいに優しい微笑を浮かべ、素早く左手を出した。じゃらりと金属製の音を立てて少女の足元に投げ出された鎖。先端の分銅は赤く染まっている。
一瞬思考が停止した少女に父親はただ一言答えた。
「凶器は『これ』だよ」
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