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旅立ちの朝
「タカちゃん、忘れ物はない?」
「大丈夫だよ。心配しないで。」
おおよそ今後の生活で必要となる荷物をまとめ終えて、僕が自分の部屋が少し広くなったように感じた。2階にある僕の部屋からは、東京タワーが見える。ここに越してきてすぐの頃は、わけもなく、何時間も赤色の電波塔を眺めていた。
「君はここに12年も住んでたのか。少しは名残惜しそうにしたら?」
僕の部屋に入ってきた恵子おばさんは、苦笑しながら僕の荷物のうち、比較的小さな方のカバンを持ち上げながら言った。もちろん、色々な思い出が詰まったこの家を離れることは、名残惜しい。でも、僕は次の道に進まなくてはいけない。感傷になんて浸っている暇はない―。
そんな風に考えてしまうのは、18歳にしては達観し過ぎなんだろうか。
階段を下りて、廊下を進んでいくと左手に6畳ほどの広さの居間がある。恵子おばさんと2階の自分の部屋を出て、1階まで降りると、6畳間では不用品引き取り業者が忙しなく動き回っていた。次は廊下に近い方にあるタンスを外に出すらしく、先輩と思しきスタッフが何やら他のスタッフに指示を飛ばしている。
「あ、すいません、ここにあるこたつ」
「ああ」
6畳間の中央には年季の入ったこたつが鎮座している。この家で生活していた人間の、ありとあらゆるものを吸収して、この小さな家には不相応なほどの存在感を放っていた。
「そのこたつ見ると、おばあちゃん思い出しちゃうね」
隣を見ると、恵子おばさんは少し涙ぐんでいる。僕はそういう雰囲気が苦手なので、なんとなく俯いてしまう。
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