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6歳にして両親を失った僕を、おばあちゃんは女手一つで今まで育て上げてくれた。
「タカちゃん、こっち来んしゃい」
3月の少し肌寒い風が6畳間を通り抜けると、おばあちゃんが僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。
両親を失ってすぐは、現実を受け入れられずに、2階の部屋からずっと窓の外を眺めていた。無機質な赤い電波塔を見ていると、自分の両肩の乗っている悲しみや苦しみが、少しだけ遠くに行く気がした。そんな僕を見て心配したのか、おばあちゃんは僕の部屋を覗くと、
「下でみかんでも食べるか?」
しわしわの優しい笑顔でそう言って、僕を悲しみに満ちた世界から連れ出してくれた。僕は、いつしかおばあちゃんと二人でみかんを食べるのが日課になった。
毎日、あのこたつでおばあちゃんと二人で晩御飯を食べた。小学校の家庭訪問をやったのも、学校から帰って宿題をやったのも、学校でどんなことがあったかを話したのも、全部あのこたつだった。
中学校に上がると、思春期ということもあり自分の部屋で過ごす時間が増えたが、1階に降りると、こたつに入ったおばあちゃんがいた。いつでも、そこにいるという安心感があった。
おばあちゃんは1ヶ月前、僕の大学合格の知らせを聞いて安心したのか、その一週間後に旅立ってしまった。
ふいに涙が込みあげて、鼻の奥がつーんとした。こたつがなくなっても、おばあちゃんとの思い出は消えない。僕の心の中で、おばあちゃんはこれからも生き続ける。
「桜が咲いたら、お墓に持っていこうね。おばあちゃん桜好きだったから。あと、みかんも。」
「うん。」
僕は恵子おばさんの言葉に、ゆっくりと頷いた。
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