まさかの事態

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 私の叫び声でマンションのどこかの住人が警察を呼んでくれたらしい。  警察の到着と私の目覚めは、ほぼ同じ頃合いだった。    事情を知った警察官からは、くだらないことで呼ばないように、と怒られてしまった。    呼んだの、私ではないんだけど……。    元凶のセレナは、始終にこやかに笑うだけで、警察官が言ったことや状況を理解しているのか怪しい。  ナイジェリアから来た彼女はだいぶ日本語が上達したけれど、まだおかしい時もある。    その生活習慣も、しばしば奇想天外だった。  人前、特に男性の前での肌見せを極度に嫌がり、とても恥じらい深い人なんだな、  と思ったのもつかの間、  家の中では、カーテンを閉め切ってキャミと下着のはみ出た短パンでうろつく。  せっかくの日当たりのよい部屋が台無しだ。  そして、何かあると私がトイレだろうとお構いなしにドアを開けてくる。  他にもあるが、ありすぎて語りきれない。  そんなこんなで何かと慣れてきたはずだが、今回は私のキャパを越えた。 「カナ、変なの~」と、警察官が帰った後に、セレナが言った。  変なのはオマエじゃ、  という意味を込めて、私は彼女をギロっと見た。  しかし、彼女はあっけらかんと続ける。 「日本人も、虫、食べる。イナゴの佃煮。美味シイ」 (あ、そう。よかったね。私、あれもダメなのよ。って、違くて) 「だからって、Gは誰も食べないわよー!」  叫び終えた処で、セレナに「シー」とやられる。 (誰のせいでこうなったと思ってんのよ……)  どっと疲れが出て、私は盛大にため息を吐く。  しかし、セレナはさらに攻めてきた。 「Gじゃナイよ、ゴキブリだよ」 「言わんでよいわ!」 (ホント、やめてくれ……)  半年がんばったこの生活を続けられる自信がなくなってきた。  でも、だからって引越して他へ行く余裕は今の私にはない。  大学でも家でも私が彼女の面倒をみることを条件に、安く住めている。  彼女を突き放す訳にもいかない。  それに、セレナがいることで役に立っていることもある。  私が苦手な虫退治もそう。  だが、だからって、退治したソレを焼けば大丈夫って訳ではない。  重たい体を起こして気を取り直し、私は夕飯の仕度に入る。
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