たまには優しくして欲しいだけなんだ

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たまには優しくして欲しいだけなんだ

「うう……痛い。口の傷が化膿しちゃって」 「猫に引っ掻かれたのにロクに消毒もしないで熱い蕎麦なんか食べるからだろ」 「何だか熱を感じるんだ。すごくジンジンしてさ。見てくれよ、少し腫れてるだろ」 「冷やせば少しは良くなるんじゃないか?」 「鋭いな。その通りだ。こんな時はしっかり冷やして、炎症を鎮めるのが効果的なんだ」 「じゃあやれよ」 「簡単に言うな。そんなことをしたら、今我々が温もりの恩恵に預かっているこのコタツの存在意義が疑われてしまうだろ?」 「いや。疑うヤツいないから安心しろ」 「暖をとっているこの状態で、冷を求めるなんて。矛盾で頭がおかしくなっちまうだろ?」 「もうとっくにおかしいから安心しろ」 「いや待てよ。コタツでアイスを食べる贅沢というものがあるな。これはなかなか国民の半数以上が行っている当然の儀式のようなものだ。それだと思えば、この矛盾を犯しても何とか正気を保っていられそうだ」 「国民の半数は言い過ぎだけどな」 「ふっ。こんな風に、自分に嘘をついて流される日が来るなんて思ってもみなかったな。でもいいじゃないか。たまには流れに身をまかせて生きてみるのも。それもまた人生――色々人生だ」 「色々と人生が逆になってるぞ」 「覚悟はできた。さあ、冷蔵庫から氷を取って、この不埒な愚か者にひとひらの温情を!」 「…………」 「私はもう、流れには逆らわない。君の施しも屈辱だが甘んじて受け入れよう。さあ!」 「…………」 「無視か……冷たいな」 「冷えただろ」 ~完~
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