ちがう。ちょっと痛かっただけなんだ

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ちがう。ちょっと痛かっただけなんだ

「痛っ! ふぅ~……――美味い! コタツで蕎麦最高だな」 「傷口にしみるのによく食えるな」 「フーフー――そいや先月、よく行く蕎麦屋でさ、惜しい女を見たんだよな」 「惜しいってなんか失礼だな」 「その女はなんていうか、一目で気になったんだよな。髪がつやつやで肌が白くてさ。座り方とか所作も上品で。美人だったと思うな。いかにも蕎麦が好きそうな顔で」 「お前が言う『いかにも蕎麦が好きそうな顔』ってのが伝わりにくいけど、とにかく美人を見たんだな」 「フーフー――そう。でさ、その人はレディースセットってのを頼んでたんだ。細いのに意外と食べるんだなって感心したね。少食な女よりある程度食べる方が好感が持てるな」 「昨今のレディースセットって、かなり量があるもんな」 「フーフー――そう。でさ、そのレディースセットは、蕎麦と炊き込みご飯と野菜のかき揚げの3点セットだったんだ。炊き込みご飯は蒸籠(せいろ)に入っててなかなかの高級感だ。いかにも女子ウケしそうな演出だろ。実際は蒸籠で蒸したわけじゃなくて、ただ入れ物を蒸籠にしてるだけなのにさ」 「見栄えを意識したお店側の戦略だろ」
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