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二 正解
夕日の差し込む放課後の文芸部室。
適当に積み上げられた本の間に椅子を置いて座っている先客がいた。
本を読んでいて顔は見えないが、シルエットでわかる。
後輩の小金井亜梨花だ。
……彼女もきっと、誰かに樹皮色の菓子を上げたんだろうな。
そして、三倍返しの約束も取り付けて悠々と読書ってわけだ。
ああ、面白くない。
不意に彼女が顔を上げた。
「あ、先輩。やっと来た」
「やっと?」
「バレンタインから逃げて、とっととこの部屋に来ると思ってたんだけど」
「授業中に寝てたせいで、さっきまで職員室に呼ばれてた」
「バカじゃん」
「うるせーな」
「さて、問題です」
彼女が突然そう言った。
夕日のせいか、彼女の顔が赤い。
多分、俺の顔も真っ赤だろう。もちろん、夕日のせいだが。
「私はなぜここにいるのでしょうか」
亜梨花は握り拳から人差し指を立てて見せた。
「一、どうしても読みたい本があったから」
次に中指を立てる。
「二、ある先輩に渡したいものがあって、わざわざ待ってた」
ある先輩……。
「さて、どっちでしょう」
彼女はそう言って、少し含みのある笑顔を浮かべて見せた。
バレンタインデー。
樹皮色菓子を貰えたか否かで優劣が決まってしまう恐ろしい日の出来事だ。
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