0人が本棚に入れています
本棚に追加
目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。遠くに見える工場地帯。その反対側の大きなホール。そこが学校の屋外階段であることはすぐわかった。
しかし、なんだか様子がおかしい。人が一人もいない。この光景にデジャヴを感じる。数日前に夢で見た光景と同じだ。下を見ると、黒いジャンパーの男が走り去るのが見えた。恒介はやっぱり、と思って階段を駆け降りた。
数分前、恒介は部活動に励む生徒を眺めながら、彼女の満を屋上で待っていた。人の気配に気づいて振り返ろうとしたとき、背中に強い衝撃を受けた。
あのジャンパーの男が、俺を突き落としたんだ!恒介は必死で追ったが、途中で見失ってしまう。
疲れて目についた商店に入ると、人がいた。50代くらいのおじさんだ。彼は、「お前さんももうすぐ死ぬのか」と尋ねてきた。
話を聞いてみると、どうやらここは死にかけている人が迷い込む街らしい。男はもう三年ここにいる。つまり、現世の男は三年も昏睡状態なのだ。
恒介は、自分が屋上から落ちて重体にあることを知り、死にたくないと思った。満や友達の顔が浮かぶ。
その時、黒いジャンパーが視界の端を過った。恒介は追いかける。やっと捕まえた男の正体は、親友の龍也だった。
龍也は満が好きだった。その嫉妬ゆえだったが、突き落とした時に恒介がジャンパーの袖を引っ張り、共に屋上から落ちたらしい。
また屋上から落ちたら現世に戻れるのではと言う龍也の提案を飲み、再び屋外階段を昇り屋上に立つ。
「お前をこんな目に遭わせたんだ。俺はこの街に残る」
と言う龍也。1度は「一緒に帰ろう」と説得したものの、龍也の意志は固かった。
しかし、突き落とされた瞬間、恒介の中で何かが動いた。咄嗟に、彼のジャンパーの裾を掴んでいた。
目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。「先生ー!」と先生を呼ぶ看護師の声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!