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第一章 決起2
ふっと息を抜いた烏有は、書き上げたばかりの文を読み直し、筆をおいた。あとは墨が乾くのを待ち、押印して郵亭の受付に出すのみだ。
扉を叩く音がして、耳を澄ませば声がした。
「お茶をお持ち致しました」
「ああ」
短く答えれば、少女が茶と焼菓子を持って入ってきた。少女に茶代を支払えば、会釈をした彼女はニコリともせずに去っていった。
烏有がいるのは、書簡などを各所へ配送する郵亭の二階にある、書茶室と呼ばれる個室だった。蕪雑と約束をした翌日、府を造る旨を岐に住む知人へ伝えるために、甲柄に戻り、ここに入った。ここならば必要な道具はすべてそろっているし、それなりの金を払えば、内密に送付の手続きをおこなえる。
烏有は茶をすすり、宛名に目を落とす。そこには各地の府から届く報告書を管轄している、官僚の名前が書かれていた。ただの楽士がそんな相手に直接、文を送れるはずがない。しかし、それを可能にするものを、烏有は持っていた。
「僕からの文だと知ったら、どう思うかな」
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