第一章 決起2

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 岐を中心に人々は生きている。ゆえにそこは、中枢と呼ばれていた。各地に点在する豪族は、太政官から派遣された領主に管理される。それらの地は“府”と呼ばれ、そうでない場所は“国”と呼ばれた。“国”は申皇に認められていない土地とされ、中枢からの恩恵は受けられない。豪族らは“府”となりたいがために、各地を流浪し神事を行う下級の神祇官へ、領主をいただきたいと願い出る。あるいは”国”を見つけた神祇官が、それを上へと報告し、太政官から視察団が送られて、認定されれば“府”となった。よって、よほどでなければ、国は必ず“府”と変わり、岐より派遣された領主が、中枢の常識を持っての統治を豪族に指導、監視をするため、どの地もおおかた、身分に関する意識は似通っていた。 「工夫や農夫が、人としての尊厳を奪われない国……か」  そんな国があると記されている書物があった。多くの者が住み働いているからこそ、国となる。生み出す力のある者を、統治する者は敬わなければならない。でなければ、なにも生み出せぬ統治者は、ただ渇いて朽ちるだけだろう。  それは異教の書物だった。本当に、そんな国があるのかと烏有は驚き、見てみたいと望んだ。だが、それを口に出すのは憚られた。それはつまり、申皇のなさり方を否定するものだからだ。申の一族は人として降りられた神の末裔であり、天上の神の御使いでもある。その威光をわずかでも傷つける発言が、できようはずもない。  民は神のために地上を豊かにするものであり、その神の意思を伝え支える官僚は、選ばれし者とされている。神祇官が神事のたびに歴史として、それらの教えを伝えることで、申皇の統べる土地のすべてに、生み出すものを最下級とする認識が定着していた。     
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