19人が本棚に入れています
本棚に追加
両腕を広げて感激する蕪雑の背中を、不思議な気持ちで烏有がながめていると、傍に剛袁が立った。
「我等は蕪雑兄ぃのように、貴方を全面的に信頼しているわけでは、ありませんから」
冷淡な小声に、烏有はそっと唇に笑みを乗せる。
「それが当然だろう。蕪雑がアレでは、さぞ気を揉むことが多いんじゃないかな」
「そこが、兄ぃの美徳ですから」
「なるほど」
ふたりの視線を背に受けて、蕪雑が川へと歩きだす。そこに袁燕も並んで、烏有と剛袁が後に続いた。
「こんなに広い土地なら、でっかい家に住めるよな」
袁燕は飛びはねたり、クルクルと回ったりしながら、山裾から川までの道を行く。
「あんまりデッケェ家を作ったって、持て余しちまうぞ。だいたい、ここに造るのは、俺等だけの集落じゃねぇ。国なんだ。甲柄ぐれぇ、でっけぇのを造るんだからな」
蕪雑が声を弾ませると、袁燕は変わらず全身ではしゃぎつつ、剛袁にまとわりついた。
「兄さん、兄さん。ここを好きにしていいってんなら、うんと畑を作ろうな。食っても食っても、なくならないくらい、いっぱいの麦を育てるんだ。そうすりゃあ、誰も腹をすかせなくてすむし、俺っちも食べ物の心配なんかしねぇで、細工師の修行に打ち込める」
「そうですね」
「兄さんは、どんなふうにしたい?」
「俺は……」
最初のコメントを投稿しよう!