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快活な笑いを弾けさせるふたりに、剛袁は愁眉となって額に手を当てた。
「苦労をするね」
「誰のせいですか。とんでもない話を持ち込んできた、張本人にねぎらわれたくなど、ありません」
たしかにそうだと、烏有は剛袁の恨めしそうな視線を受け止めた。
「貴方は、何者なんですか」
「ただの旅の楽士だよ」
「それがどうして、府を造る許可状を、中枢に求められるのです」
「腕のいい楽士は、身分を問われず宴に招かれる。そこで気に入られ、格別の待遇を得ることもある。それだけだよ」
剛袁が疑わしげに、烏有の目の奥を覗きこむ。
「たったそれだけで、大それた文を送れるとは思えませんね。……お偉方のどなたかと、格別な関係にでもあるのですか」
烏有は肯定とも否定ともつかない笑みを浮かべた。
「貴方は――」
「なにを、ふたりでコソコソ話してんだよ。さっさと、こっち来いって。川までは、まだまだ距離があるぞ! 今夜は、川のそばで野宿だな」
「俺っち、川で泳いでみたい」
「おう。そいつぁ、いいな。食料も確保してぇし、でっけぇ魚を捕まえて、土産にすんのもありだよな」
袁燕が歓声を上げて、剛袁と烏有に駆け寄り、ふたりの腕を引っ張った。
「早くしないと、日が暮れて川に入れなくなっちまうぞ」
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