第一章 決起5

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第一章 決起5

 手を伸ばせばいくらでも掴めそうなほど、夜空に星がまたたいている。川原のそばにあった大岩に腰かけて、烏有は空を見上げていた。水音が絶え間なく全身を包むのに耳をかたむけ、濃紺に染まった景色にひっそりと溶けこんでいる。 「眠れないんですか」  顔を向ければ、剛袁が立っていた。烏有は無言で体を横にずらす。剛袁は烏有の隣に座り、おなじ言葉を問いではなく断定として発した。 「眠れないのですね」  烏有はしらじらと星明かりに浮かぶ、端麗な顔を剛袁に向けた。 「なにか、用でもあるのかな」 「貴方は何者だろうと、考えていたんですよ。地図なんて、庶民が手にするものじゃない」 「旅をする者にとっては、必須の道具だよ」 「山の中で我等に遭遇した貴方は、落ち着き払っていました。まるで襲われることを、予見していたかのように」 「いつ、いかなることがあっても動じないほど、各地でいろいろな体験をしてきたからね」 「それでも人はああいう場合、すくなからず恐怖を覚えるものです。……貴方は、死を恐れていないのですか」  ふっと烏有の目じりが、やわらかくなった。 「そんな人間が、いるとは思えないな」 「そんなふうに見えたんですよ。あのときの貴方は」     
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