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「そんな方法があるんなら、なんで豪族はそうしねぇで、たまに領主とああだこうだ言い争ってたりするんだ? 甲柄だけがそうで、ほかの府はそうじゃねぇのか」
「どこも似たり寄ったりだよ。領主は申皇の定められた法を基準に、豪族の治世を正そうとする。豪族は己の法律で府を統治しようとする。その折り合いがうまくいかなければ、争いとなる。あるいは、賂欲しさに、わざと文句を言ったりもする。……はじめから、中枢の法を基準としていれば、そんなことはなくなるさ」
「てこたぁ、豪族はその法律を知らねぇってことかよ」
「そういうことになるね。あるいは、知っていて知らぬふりをしているか、かな」
「なんで烏有は、そんなことを知ってんだ」
「僕は腕のいい楽士だからね。岐の官僚の宴に呼ばれ、褒美と滞在の寵を受けることもあるのさ」
謎めいた微笑を浮かべた烏有は、杯を目の高さまで持ち上げて、乾杯をするようにそれを揺らすと、一気に飲み干した。美麗な所作に、蕪雑が居心地悪そうに目を泳がせる。
「ねえ、蕪雑。あたらしい府となる国を造り、人々を安堵せしめようじゃないか」
「俺ぁただ、山賊をやめて、どっかに落ち着きたいって言っただけだぞ。それが、こんな大掛かりな話になるたぁなぁ」
「なら、やめておくかい?」
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