0.夫の失踪

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夫の両親は数年前に他界している。 四つ歳が離れた四十に手が届く頃合いの夫の親としては早い方だと思う。 でも、彼の失踪を知ることがなくて幸せだったとも思う。 尤も、彼らが今いない事は私も助かっている。 彼らが生きていたら、 夫の失踪は私の所為だなんだと口々に文句を言いに来ただろう。 女一人、自分の力で着飾って仕事をしてきた身としては、 それなりにとんでもない事態に冷静に対処する方法は心得ている。 そして、夫との仲もいつの間にか冷え切ってはいた。 五つになる息子、昇の為だけに夫婦を続けていたようなものだ。 それでも、さすがに、 失踪事件を起こされた上に、いろいろ言われるのは私でも堪えるものがある。
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