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「ママ、パパは?」
「ちょっと長い出張に行っているのよ。まだ戻って来れないみたいなの」
夫の不在を恐らく唯一悲しみ寂しがっている昇は、
毎日のように夫に似た大きな瞳を私に向けて見上げてくる。
「パパちゃんと戻ってくるよね? 僕やママのこと、嫌いになったわけじゃないよね?」
上手く取り繕ってきたつもりだったけれど、そろそろ限界なのかもしれない。
昇も昇なりに私達にいろいろ気を使っていたって事だ。
誰も何もしてくれない。夫からも何も音沙汰なし。
埒が明かなくなった私は、仕事を無理やり調整して、一度グラナダまで行こうと思った。
息子を連れて行くかは迷った。
いない方が何かと動きやすい。
しかし、夫も私も仕事尽くしでロクに遊んであげられていなかった事を思い出し、
まずは息子に行きたいか確認する事にした。
第一声の返事は夫が一緒かの確認だった。
いないことを伝えると、「なんで?」の返事と共に寂し気な瞳を更に曇らせた。
それでも、私と二人だけでも「行く」と言ってくれた。
私は、思いの外、昇が私の事も好きでいてくれた事に安堵している自分を知った。
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