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そんな矢先、ある男が現れた。
翌々日にはスペインに向かうという日の夕方、
どう調べたのか、家にそいつはやってきた。
チャイムの音に昇が急いでインターホンに出た。
パパだと思ったのだろう。
しかし、昇は訝し気に首を傾げると、遅れて駆け付けた私の顔を見た。
「知らない人……」
私もインターホンの画像を見る。
辛気臭いスーツの男が一人立っていた。
せっかくの良いスーツも形無しの暗さである。
齢は私より十は上、夫より六、七上と言った処だろう。
「どちら様でしょう?」
躊躇い尋ねる私に彼は低く暗い声で返した。
「常磐京子さんですか? 初めまして。
常磐道雄さん、ご主人と取引をしております
ウィール・コーポレーションの金原と申します。
ご主人の事でお話がありまして伺いました」
夫の仕事は宝石商だ。
ディーラーである夫の取引相手となると
海外の採掘か運送会社、又は国内外のジュエリーデザイナーやメーカーになる。
そのどれにも当てはまる気がしない。
職種が違うにしても、
私も仕事でいろんな業種の知り合いや彼らの仕事関係の繋がりを知っている。
どう考えても夫の取引相手になるような仕事の男には見えなかった。
「なんでしたら名刺もあります」
そう言って男はインターホンのカメラに自分の名刺を向けた。
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