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…そして私の前から去っていく。
何の約束もせず、
別れさえも告げずに。
不思議と恨む気にはなれなかった。
優しい人だったから、
私を傷つけられなかったのだろう。
だから私の方から留守電に
『さようなら』とだけメッセージを残し、
心機一転、すべて変えた。
電話番号もSNSもメアドも全部全部。
芳の時みたいに掛かって来ない電話を
ずっと待つのがイヤだったからだ。
さすがに二度目の失恋は、回復が早く。
そのうち就職活動に熱中し、
いつしか彼のことを
考えることも無くなった。
就職先は付き合っていた頃に
光正が話してくれた会社だ。
ウチの地元出身の人が社長をしていて、
とても素晴らしい社風なのだと。
>そこ、世襲制だったんだけど、
>あまりにもその人が有能すぎて
>外部の人間を社長にすることを
>周囲も認めざるを得なかったらしい。
これも縁かな、と思う。
芳に会わなければ、
光正と付き合うことも無く。
光正に会ったから、
この会社で働くことを決めたのだから。
…そして入社式で私は、
意外な人物と再会を果たすのだ。
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