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番匠 光正(ばんしょう みつまさ)
…それが彼の名前だ。
長年培われたモノは
そう容易く変わることは無かったが、
光正は恐ろしく真面目な男で、
私が要望を出すと改善に努めてくれた。
本当に不思議な人で。
一緒にいる時よりも、
離れた後の余韻が美しいというか。
付き合い出してから1カ月経っても、
2カ月、3カ月と経過しても、
よそよそしい態度は変わらなかった。
それでも大切にしてくれていることは
充分伝わって来たし、
芳の時のように強い想いでは無かったが、
確かに私は光正を好きだった。
しかし、残念ながら
世の中そんなに甘くなかったのである。
付き合って半年くらいで、
彼は大手食品会社に就職。
営業部に配属されたのだが、
あの目立つ容姿に加え、
真面目な性格を非常に気に入られ。
上司が接待に連れ回すようになる。
誰よりも人に気を遣う光正は、
精神的に疲弊し、
みるみるうちに弱り始めた。
それでもまだ私との時間を捻出しようと
無理をして、笑顔も少なくなり。
『もう限界かな』と思い始めた頃に、
福岡支店への異動が決定。
そんなに仕事量は変わらないはずなのに、
私と離れることで
時間に余裕が出ると思ったのか、
心無しか彼は安堵の表情を浮かべていて。
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