1.始まりと終わり

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…とは言え、 それは洋楽でしかもブルースだったので、 高1の小娘にさらりと歌えるワケが無く。 密かに特訓を重ね、 ようやく披露出来るまでに2カ月が経過。 放課後、教室の隅っこで 女友達を待ちながら口ずさんだのは、 もちろん周囲に誰もいなかったからで。 情感を込めて歌い上げたところ、 背後から拍手の音が聞こえて、 冷や汗をたっぷりと流し。 そおっと振り返ると、 そこにはクラスメイトの男子が、 真顔で立っていて。 焦った、心の底から、焦った。 そして口を真一文字に結んでいると、 彼はこう言ったのだ。 「その曲、フィービ・スノウの サンフランシスコ・ベイ・ブルースだろ。 俺も大好きなんだよね」 何と言うか。 誰も知らないと思っていたはずの曲を、 こんな身近な人間が知っているなんて。 大ゲサだけどこの時は、 砂漠の中で一粒の砂金を見つけたような、 そんな錯覚に陥ってしまい。 彼にCDを貸したことをキッカケに、 恐ろしいスピードで仲良くなって。 それ以降、2人はいつでもどこでも セット扱いされるようになる。 …これが私と井崎 芳(よし)との “始まり”である。
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