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…とは言え、
それは洋楽でしかもブルースだったので、
高1の小娘にさらりと歌えるワケが無く。
密かに特訓を重ね、
ようやく披露出来るまでに2カ月が経過。
放課後、教室の隅っこで
女友達を待ちながら口ずさんだのは、
もちろん周囲に誰もいなかったからで。
情感を込めて歌い上げたところ、
背後から拍手の音が聞こえて、
冷や汗をたっぷりと流し。
そおっと振り返ると、
そこにはクラスメイトの男子が、
真顔で立っていて。
焦った、心の底から、焦った。
そして口を真一文字に結んでいると、
彼はこう言ったのだ。
「その曲、フィービ・スノウの
サンフランシスコ・ベイ・ブルースだろ。
俺も大好きなんだよね」
何と言うか。
誰も知らないと思っていたはずの曲を、
こんな身近な人間が知っているなんて。
大ゲサだけどこの時は、
砂漠の中で一粒の砂金を見つけたような、
そんな錯覚に陥ってしまい。
彼にCDを貸したことをキッカケに、
恐ろしいスピードで仲良くなって。
それ以降、2人はいつでもどこでも
セット扱いされるようになる。
…これが私と井崎 芳(よし)との
“始まり”である。
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