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あらすじ
目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
ひんやりとした風が頬を撫でて気持ち良い。
仕事を徹夜したあとの長旅のせいか、こんな所で眠ってしまったらしい。
今日は祖母の三周忌であった。
あの夏までは、もう何年も会っていなかった祖母。
子どもの頃はよく帰省していたが、その頃のことは次々出てくる料理とお小遣いのこと以外、どうにも思い出せない。そんな祖母との少ない記憶を辿ると、三年前の日々のことを思い出さずにはいられなかった。
ーカシャッ。
「盛れた!更新しよ~っ」
18になってすぐの夏。加瀬 十希乃は、残り半年の学生生活を"楽しいこと"だけで埋めていくのに必死だった。三年間で得たものは、友達 と 自分を繕う知恵。勉強もバイトもそこそこにやった。SNSでは"わりと可愛い"自分を作った。アクションが多いと気取った気持ちになったが、やることといえばそんなことしかなかった。"無難でつまらない人間"とどこか冷静に自分を見て、将来何してるだろう このまま上っ面の自分で生きていくんだろうーそんなことをぼんやり考える日々を送る。
『夏休みは長崎で過ごしませんか』
そんなとき、祖母から届いた一通の手紙。
「ばあちゃん病気になってから、十希乃に会いたいってずっと言ってるらしいんだ」
両親が共働きで忙しいこともあり、ずっと祖母には会っていないし、病気と言われても正直実感がなかったが、それでも、末期癌と診断された祖母、その子であるにも関わらず側に居られない父の気持ちを考えると、断る選択肢はなかった。
少しの不安と緊張を持って長崎に向かう十希乃だったが、祖母の家には喘息を患い不登校になってしまった従姉妹の鈴がいてー
何でもない日々にどこか不満を感じる少女と、残された時間の生き方を模索する祖母のひと夏の物語。
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