湖面の陽を掬う

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湖面の陽を掬う

 風が強く吹いてきた。湿った空気が肌に触れ、徐々に天候が悪くなっていくことを告げる。空には厚い雲がかかりどんよりと暗く、今にも降り出しそうな天気だった。街ゆく人々は既に天気予報を見ていたのか、傘を手に持つものばかり。スクランブル交差点に溢れかえる人々は、ぶつからないように器用に他人の間をすり抜けつつも足早に歩いていく。  そんな中、高砂佳純は、人より頭一つ出そうなほど高い背を丸め、人波に紛れるようにして歩いていた。きっちりと着込まれたスーツには使用感があり、ほつれなどはないものの少しやつれた印象を受ける。顔色も悪く不健康そうに見える彼は、その実しっかりとした足取りで歩みを進めていた。ぽつりぽつりと降り出した雨が彼の緩く波打つ髪を濡らしていこうが、彼は空を見上げるでもなく、ただまっすぐ前だけしか見えないかのように歩みを進めていた。 「あれ」  少し後ろで小さく上がった声と肩を叩かれる感触に、高砂は振り返った。先程までどろりと濁った水のような色をしていた瞳が、一瞬で輝く。 「……あ、大地さん」 「こんにちは」     
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