湖面の陽を掬う

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 あれは、あくまでフィクションだ。実際の探偵は殺人などには踏み入らない。だいたいが地味で地道な情報収集だし、ついでに言えばやってくるのは身元調査だの浮気調査だのが大半だ。毎日何かを追いかけたり証拠を掴む為に同じ体勢で待ち続けたり、そのくせ依頼主に渡すために書類整理も多いのだから気が滅入る。実に体力勝負のお仕事、というわけだ。 「君は今から仕事?」 「丁度一段落ついて、夜の仕事のために移動してる最中ですよ」 「相変わらず忙しいね。顔色悪いけど、ちゃんと食べてる?」 「まあ……」 へらり、と高砂は笑みを浮かべてお茶を濁した。当然、ちゃんと食べているなんて嘘だ。 料理は好きだが、そもそも料理をする暇すらない。そもそも仕事柄昼夜逆転は当たり前。徹夜は頻発するし、状況を見落とさないためにずっと同じところを見つめ続けて数時間、といった状態では食事を摂ることすらままならない日々を送っている。食事だけならまだいいが、当然そんな生活では睡眠欲すら満足に満たせやしない。 高砂の胃は常にキリキリしていたし、いつだって眠気でぶっ倒れそうだった。眠気覚ましとストレス解消のための煙草とコーヒーが増えていくが、余計に胃痛も増すばかりという、面白くもない話。 「俺相手に嘘吐かなくていいよ、しんどいだろ」 ポンッ、と背中を軽く叩かれた。げんなりとした気持ちが、ふっと軽くなる。代わりに、口からぽろりと言葉が溢れる。 「しんどい、です」     
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