湖面の陽を掬う

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時間を合わせるために入った喫茶店から出ようとするとき、ふっと、後ろから小さな声がかかった。振り返れば、自分の胸ほどの位置までしか身長のない女性が立っていた。その姿を見て、高砂はぎょっとした。 「………高砂さん、ですよね?」 「……っ、そうですけど。どちら様で、なんのご用ですか?」 しれっと尋ねる。高砂は、彼女の顔を知っていた。 「私、土屋大地の妻です。単刀直入に言いますが、これ以上あの人の周りでうろちょろするのをやめて頂けませんか?」 ぞっと一気に体中を寒気が襲った。女性の目は気持ちの悪い光をたたえ、歪に歪んでいた。綺麗にピンク色のルージュが塗られた唇はぽってりとして男性を惹きつけるようなものだが、その唇が浮かべる笑みは左右非対称に引きつっている。妻、ということには触れず聞き返す。 「……なんのことです」 「知っているんですよ、私」 高砂も、知っていた。 大地といる時に感じる視線。なんとなく感じる違和感。それが彼女だと気づくのにそう時間はかからなかった。偶然にしては、出会う機会が多すぎる。しかも、その多くが大地と共にいるときなのだから疑って当たり前だ。 証拠は調べたらいくらでも出てきた。彼女は執拗なまでに大地の後をつけていたし、おそらく彼のパソコンや携帯の情報も筒抜けだろう。 「私を知っていたところで、私が彼の傍を離れる理由にはなりません。……私は、あの人と一緒に幸せになりたいんです」     
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