湖面の陽を掬う

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時々大地が怪訝な顔をしていたが、それでも高砂にしてはうまいこと誤魔化せたほうではないかと思う。納得がいかない顔をしつつも大地は引き下がった。しかし、彼に尋ねると未だに視線を感じることや誰かがつけてくるような感覚はあるようで、あの女のストーキングは未だに続いているようだった。 盗聴器を外そうが何しようが、なんの効果もないようだった。これは新たに対策をしなくてはいけないようだ、と苦い顔になる。 こういう仕事をしていると、何度かそういった人間にお目にかかることはある。明らかにストーカー目的の仕事の依頼であったり、DVの加害者だったりした場合は今の事務所は仕事を断る。しかし、昔の職場ではそういった相手であろうが金が稼げればいいという姿勢で全部請け負っていたため、すぐ身近で見ることになった。あれは、とてもではないが、気持ちのいいものではない。 その後探し出された人間がどうなったのかは高砂は知らない。ただ、どれだけ苦しんでいたのかは察しがついた。 今のところ、嫌がらせや家が荒らされたりなどといった直接的な被害はないようだったが、それでも謎の好意が向けられ、しかも視線を感じたりつけられたりするのは気分がいいものではないだろう。いっそ恐怖を覚えるかもしれない。あの被害者たちと同じ思いを大地がするのが怖かった。 自分だけなら構わない。けれど、彼にも被害があるのなら。     
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