湖面の陽を掬う

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だって、大地は、そう、彼女から自分を守ってくれて。かすみ、と必死な声で呼んでくれて。違う。あれ。 「わかってるんでしょう」 そうだ。彼は。 「……かすみって」 「香澄は、兄の妻の名前だ。高砂佳純、貴方じゃない」 「私は」 「貴方は兄のストーカーだろう?」 「私は……でも、大地さんは、好きだって、大事だって」 言ってくれた。間違いない。そう、そして、彼は抱きしめて、撫でてくれた。 「一度でも、そういう行為をしたことは? セックスは? キスは? それどころか、あんたの家に泊まったこともないだろう?」 「それは、タイミングが合わなくてまだなだけで」  そうだ、仕事の資料があるから。翌日が仕事で服がないから、だから。 「一度だって、兄は貴方を佳純と呼んだことはないだろう?」 違う、違う違う違う。 「違う……」 「貴方は兄に愛されたかっただけの、可哀想なその他大勢だ。特別になんてなれない」 「違う……っ、あの人は、愛して、くれて」 あれ、愛してるなんて言われたことあったっけ。違う。おかしい。そうだ。彼は、彼は…… 「わかってるんでしょう」 青年は、もう一度高砂に問いかけた。 「……兄をずっと見ていたあんたは、兄の特別になんてなれないこと、もうわかってるでしょう」 「……わかりません」 わからない。     
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