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見回せば、隣に大地によく似た面影をもつ青年が椅子に座っている。
「……起きました?」
「……大地さんの、弟さん?」
「そうだよ」
高砂が首を傾げると、彼はげんなりとした顔で溜息を吐いた。
「何をしたかわかってます?」
「……ちょっと、よく覚えていなくて」
記憶をたどるが、よく思い出せなかった。そういうことが、よくある。
「では、貴方が土屋大地に愛されていなかったことは?」
目を見開いた。知っていた。いつかこうして突きつけられることは分かっていた。
「……そんなの、わかってるに決まってるじゃないですか」
あの人は、妻のいる人だ。
「なるほど、こっちの貴方はもっと冷静なんだ」
「……それでも、よかったんです。それでも、愛されたかった。愛されていたかった」
「それは貴方の求めるものじゃないだろう」
「それでも、よかったんです」
首を左右に振る。
「あの人だけが、私を助けてくれたから」
「諦めてください、兄は貴方のものにはならない」
知っている。分かっている。それでも、ぬくもりがほしい。ここにいていい理由がほしい。この青年の手は温かいのだろうか。高砂はそっと手を伸ばし、彼の手を握った。
ひんやりとした、美しいがどこか人形めいた細い指。それは大地の指とは随分と違った。
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