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「……あの人の手で撫でられるのが、抱きしめられるのが、好きだったんです」
「貴方は、助けてくれたら誰でもよかったんでしょう」
「……そうかも、しれません」
「だから、貴方は助からないんだ」
残酷な現実を突きつけないで欲しかった。
「知ってます、私が、愛されるような人間ではないなんて、わかってます。でも、それでも私は」
幸せに、なりたかったんです。そう呟くと、はたはたと涙が落ちてきた。分かっていた。
「……馬鹿な人だな、貴方は」
「……貴方にはわからない」
「人格を崩壊させてまで痛みから逃げ続けるようなやつのことなんか分かるはずがないだろう」
涙がこぼれ落ちる。ああ、もう二度とあの愛おしい日々には戻れない、またあの空虚な日々に戻るのだ。しゃくり上げそうになりながら、どうにか言葉を絞り出す。
「愛され、たかった、んです。幸せに、なり、たかったんです……」
「だとしたら、貴方は相手を間違えたよ」
静かな低い声。高く甘い大地の声ではない。ここに、彼はいない。もう、太陽のように高砂を照らすことはない。
「……幸せに、なりたかったなあ」
太陽の魔法は溶け、ただ冷たい月の光だけが窓から差込み、高砂を照らしていた。
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