湖面の陽を掬う

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「な、今度余裕あるときにうちおいでよ。ちょっといいもん食わせてやることくらいできるからさ」 「奢りですか?」  冗談めかして尋ねる。 「当然」 にっ、と笑う顔は悪戯を成し遂げた後のガキ大将のようで、普段は落ち着いていて頼れる雰囲気を纏う彼の印象をぐっと幼く、そして更に親しみやすいものに変えた。冗談のつもりだったのにな、と思いながらも、高砂はこくりと頷いた。 「……なら、楽しみに頑張ります」 「ん、倒れない程度にな。またスケジュール、メールしてきて、俺は合わせて時間作るから」 自分も忙しいはずなのに、などと高砂が言う前に大地はその手を軽く上げて高砂に背を向けた。 「じゃ、また」 「え、あ、はい」 彼は、もう一度高砂を振り返ると、連絡待ってる、と楽しそうに笑った。高砂は、その笑顔に目を細め、その背をぼんやりと見送ってから、再び目的地へと歩き始めた。 「かすみ」 柔らかく自分を呼ぶ女の声に、高砂は顔を上げた。そして、またこの夢か、と内心で溜息を吐いた。何度も何度も繰り返し見た夢。正確に言えば夢ですらなく、繰り返し思い起こした記憶、と言うのが正しいだろう。 「かすみ」 少し指先の荒れた手が、高砂の頭を撫でる。それを払い除けたりするでもなく、彼女を見上げる。そうして、なんの邪気もない無知で無垢な顔で微笑むのだ。     
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