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こくりと頷く。深く息を吸えば、真昼の匂い。明るく世界を照らす太陽と、清潔な石鹸の香り。鼻腔いっぱいに広がるその香りが好きだ。まるで、お日様に包まれているような、真昼の太陽の下でふかふかの布団に包まっているようなそんな幸せがそこにある。
「だいちさん、すき」
「ありがとう、俺も君のこと大好きだよ」
嬉しい、自然と笑みがこぼれた。とろとろと、再び眠りに誘われていく。
「かすみ、ごめんね」
腕の中、高砂は幼い子どもに帰る。母の腕の中は極めて温かいというのに、全く心は安らぐことがなく、それでも高砂はその小さな腕を必死に伸ばして細い背に手を回すのだった。
「ううん、大丈夫?」
大丈夫でないことなど分かっていた。その抱擁は高砂を抱きしめるためというよりかはむしろ、小さな体を抱き込むことによって崩れそうな体を支える行為のように感じられた。
しかし、高砂の当時の栄養不足の小さな体では、いくら細身とはいえ成人女性の体は大きく、重たい。支えられるはずもない。その重みで背中が反り返りそうになるのをなんとか堪えながらまるで子どもをあやすようにその背を撫でることしかできない。
耳元ですすり泣く声は、何度も何度も聞いたことのあるもの。
「かすみ、愛してる。愛しているの。ごめんね、何もできなくて」
「いいよ、お母さん、泣かないで」
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