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怜ちゃんは、私が長々と眺めている『読』を無理やり閉じさせると、それをぽんと机の上に置いた。
「梨沙子」
珍しく、名前で呼ばれた。
私は顔を上げる。そこには、いつもは目を背けがちな彼の真剣な表情があった。
「……悪いな、随分と返事を待たせて」
怜ちゃんは一言、呟いた。
数ヶ月前のバレンタイン。
私はチョコと指輪を渡し、この部屋で逆プロポーズをした。
怜ちゃんはそれを聞いてしばらく無言でいたが、「ありがとう」と「少しだけ待っていてほしい」と言われた。
また、なあなあな関係だった。でも、怜ちゃんはその場しのぎで答えを引き延ばすような適当な人間ではない。私は待っていた。ホワイトデーはシンプルなお返しのみで、その後もプロポーズの返事は無かったが、それでも私は信じて待っていた。おもちゃの指輪をずっと薬指に嵌めくれる彼を、信じていた。
怜ちゃんの言葉に、思わず身構える。怜ちゃんは姿勢を正すと、後ろから何かを取り出した。
それはリングケースだった。
「……ずっと、お前には申し訳ないと思ってた。不甲斐ない俺だから、何も言えなかった。お前がいつここから出ていってもいいと思ってた。ただ、いつかまた賞を取れたら、その時は……と思ってた。……お前から先に言わせしまって、悪い」
怜ちゃんは俯き、リングケースを差し出す。
私はそれを受け取った。
怜ちゃんは下を向いたまま、ぼそぼそ呟く。
「……あのさ。あの……。……梨沙子。あの……。俺と……」
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