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路上で占いをする人はたまに見かけるが、私は特に興味が無かった。明日は仕事だし、こんなところで道草を食っていないで早めに帰りたい気持ちもある。
だけれど、私は何故か引き寄せられるようにそのお婆さんの元へと近寄った。
お婆さんは紫のフード付きローブを纏っており、胸には派手なネックレス、指にもいくつもの指輪を付けていた。いかにもといった様相だ。だがそれが、お婆さんを現実と非現実の境にいる人間のように思わせた。
風も無いのに、蝋燭がゆらゆらと揺れている。
「ふふ、命拾いしたね。……あんた、今付き合っている男とは別れた方がいいよ」
その言葉に、どきりとする。
その瞬間、どん、と背後で大きな音がした。
私は振り返った。交通事故だ。トラックが信号機を掠めるようにして止まっている。でも幸い人の巻き添えは無いらしく、運転手も自分でドアを開け歩いて外に出てきた。周りの人が警察に連絡しているのか、携帯電話を耳に当てている。
私がこれから渡ろうとしていた横断歩道。
……偶然?
私はお婆さんを振り向いた。
「……私、死ぬところでしたか?」
「さあね。でも今生きているのだから、いいじゃないか」
お婆さんは向かいの椅子を指差す。私は誘われるまま、鞄を膝の上に乗せ座った。
お婆さんはじっと私の目を見据える。
「今付き合っている男。そいつは夢追い人だね。でもその夢は、叶いそうで叶わない。その程度の実力なんだよ。お嬢さんは苦労をするよ。他の男を探した方がいい」
唐突に、そう言った。
何の前触れも無く、核心を突かれる。でも私は、何故かその言葉をそのまま受け入れ答えていた。
「……やっぱり、そう思いますよね」
さすが占い師といったところか、お婆さんはまるで昔からの親友かのように私の全てを見透かしている。何も話していないのに会話が成り立ってしまってしまい、不思議な感覚がした。
念のため、私は断りを入れる。
「ええと……ここ、おいくらですか? 私、あまり手持ちが無いんですけど」
「いいよ、趣味みたいなもんさ。暇だったもんだから、私が呼び込んだんだ」
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