いつまでも君と

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  「お婆さん、ありがとうございます。心配してくださった気持ち、とてもうれしいです」  私はそう言うと、膝の上に置いていた鞄から二つの袋を取り出した。  それは、今日買ったものだった。私はその袋を机の上に置き、中身を開けた。  ひとつの袋には、板チョコ。そして、ホワイトのチョコペンとラッピングボックスが入っている。大したものは作れないけれど、毎年バレンタインには手作りのチョコレートを贈るのが習慣だった。 「……私、今まで彼とはなあなあで生きてきました。一緒に住んではいますが、付き合ってと言われたわけではなくて。実は恋人でもなんでもないのかもしれません。この先もこの水晶玉が見せてくれたように、生活も関係性も、なんら変わらないかもしれません」 「でも、あんたはこのバレンタインに次の一歩を踏み出すんだね」  私は頷いた。やはり、見透かされている。 「……私にも、少しの欲はあります。何かしらの『言葉』や『証明』が欲しくなるときもあります。本当は男性の方から言ってほしいと思ってしまいますが、彼はそういうタイプの人間ではありません。私も……女だし、恥ずかしいのもあって、何も言えずにいます。だけど……」  私はもうひとつの袋の中身を取り出した。  そこには、小さなおもちゃの指輪が二つ入っていた。  三十手前の女が、三十過ぎの男が付けるには、安っぽすぎる指輪。だけれど、形だけでも、と思った。 「……日本には、たくさんの行事があります。特に誕生日やクリスマスは、恋人たちにとっては大切な行事です。が、私は少し古い考えなのか……こんな行事の際、やっぱり男性がリードしてほしいと思ってしまうんです。恥ずかしい気持ちも勝ってしまう。……でも、バレンタインだけは。バレンタインだけは唯一……女性側から男性にアプローチする行事です」  お婆さんはゆっくりと頷く。 「……私、今まで彼からの言葉を待ってました。でも彼は優しいから、自分が夢追い人で私に迷惑をかけ続けていることを知っているから、その言葉を言うことはありませんでした。これからも、そうだと思います。でも私は、どんな生活であっても、この先も彼の側に居たいから」  机の上の、指輪を見つめる。  おもちゃの指輪は、蝋燭の光を受けて輝いて見えた。 「バレンタインの力を借りて……、自分から言おうと思っているんです」  
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